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第12回  ホルムアルデヒド(2)
コンピュータ室におけるホルムアルデヒドの放散源
 コンピュータ室にあるホルムアルデヒド由来の製品には次のようなものがあります。
・壁紙の接着剤
・床材の接着剤
・カーテンの防シワ加工
・プリント配線板に使われるフェノール樹脂
・パソコンの各部に使われるホルムアルデヒド由来の樹脂及び接着剤
・什器・パソコンデスク

 2005年11月7日に社団法人日本電子回路工業会環境安全委員会から出された「第1種、第2種指定化学物質(PRTR/MSDS制度対象)のプリント配線板への含有状況調査結果について」という報告書
(1)では特定の工法や使用する資機材によってプリント配線板に含有される10物質の中に、ホルムアルデヒドも含まれています。紙フェノール基材を使用したプリント配線板などが該当しますが、含有量はメーカーや機種によって異なりますので、製品それぞれについての確認が必要です。
 一部のプリント配線板の基材に使用されるフェノール樹脂(ベークライト)は、フェノールとホルムアルデヒドを反応させてできますが、フェノール樹脂はホルムアルデヒド由来の熱硬化樹脂の中でも、比較的ホルムアルデヒドの放散量が少ないと言われています。がゼロではありません。そのため、フェノール樹脂を生産する企業でも、遊離ホルムアルデヒドの量や未反応フェノールの量を低減させるための技術開発に取り組んでいるところです。(2)
 ただ、上のようにパソコンだけでなく、建材に含まれる接着剤やカラーレーザープリンタやディスプレイからも放散しますのでパソコンだけ対策をとれば安心というものではありません。
Ecma328とJEITA指針
 2001年8月に国際的な規格、Ecma328(電子機器からの放散化学物質の検知と測定)が発表されましたが、これは電子機器からの揮発性有機化合物(広義の)とオゾンの測定方法等を定めたもので、バックグラウンド(チャンバー内に被検査物が無い状態での測定)や実測の操作手順・方法、測定室の材質まで規定しています。その測定結果は、電子機器の潜在的にある化学物質放散の評価および同等の機器と比較するために適用することができるとしています。(3)
 一方、2005年9月に、「社団法人電子情報技術産業協会IT製品環境事業委員会VOCタスクフォース」によって「パソコンに関するVOCガイドライン(第1版)」
(4)が発表されました。これは各社それぞれの測定方法で対応してきたことを改め、「業界内で統一した測定方法及び放散量の指針値を設定」(4)するために設けられたものです。この指針ではチャンバー内に電源供給やセンサーなどのケーブル類を通すための隙間をできるだけ塞ぐことや、常時稼動するように電源オプションの設定を変更することなど、事細かな手順が決められています。対象機器や対象物質は次のようになっています。
 【対象機器】デスクトップ型パソコン(キーボード、マウスを含む)
         ディスプレイ一体型パソコン(キーボード、マウスを含む)
         ノート型パソコン
         ディスプレイ
 【対象物質と指針値】
        7物質         単位:μg/(h・unit) マイクログラム毎時1ユニット    
物質名 ノート型PC ディスプレイ一体型PC デスクトップ型PC ディスプレイ
トルエン 260 260 130 130
キシレン 870 870 435 435
パラジクロロベンゼン 240 240 120 120
エチルベンゼン 3800 3800 1900 1900
スチレン 220 220 110 110
ホルムアルデヒド 100 100 50 50
アセトアルデヒド 48 48 24 24
 この指針の対象となっているのは「学校環境衛生の基準」で指定されている6物質と条例等で指定されているアセトアルデヒドの計7物質で、Ecma328とは異なり、粒子状有機化合物やオゾンは含まれません。
 このように、「学校環境衛生の基準」の範囲内については、業界として安全に使用するための配慮の動きが生まれてきてはいます。ただ、さまざまな技術的改良が加えられ配慮されてはいるものの、製品の使用度などよって放散速度は異なってきます。
 指針の最後に「より安心、より快適環境を帰するためには、6.2項で示す特徴(新品のパソコンでは揮発性有機化合物の放散速度が、稼動後数時間経過すると減少する)を考慮に入れた使用方法を推奨します。例えば、●パソコン類を設置する前に換気のよいところで開梱し、しばらく稼動させる。●開梱・稼動初期の段階において換気を十分行いながら、使用する。」
(4)と、換気の重要性を指摘しています。
もう一つの課題・・・難燃剤
 パソコンの樹脂部分に使用される難燃剤は従来ハロゲン系のものを使っていましたが、今ではその多くが有機リン化合物に替ってきています。
 代表的な有機リン化合物であるリン酸トリフェニルは、社団法人日本電子回路工業会環境安全委員会から出された報告書の対象物質(第1種、第2種指定化学物質)ではありませんので、同報告書には記載されていません。
 有機リン系難燃剤について「社団法人電子情報技術産業協会IT製品環境事業委員会VOCタスクフォース」は2005年12月に「パソコンからの揮発性有機化合物に対する取り組みについて」を出していますが、その中で「環境面・健康面等でのリスクを総合的に判断し、よりリスクの少ない有機リン化合物の難燃剤を使用するようになってきました。この難燃剤は火災に対する安全性の面からも必要なものです」
(5)としています。しかし、有機リン化合物のリスクについて十分に安全性が確認されているわけではありません。

【環境省による評価】
 環境省による「化学物質による環境リスク評価第3巻」でリン酸トリフェニルは、動物実験による「急性毒性」「中・長期毒性」「生殖・発生毒性」の評価、及び事故報告での「ヒトへの影響」の評価がされています。このうち「ヒトへの影響」での報告で赤血球コリンエステラーゼ活性の低下(神経伝達に関わる酵素の機能の阻害により運動障害などがもたらされる)が認められたため、無毒性量(ノアエル)を3.5mg/m(3.5ミリグラムパーリューベ)(暴露状況で補正0.7mg/m(0.7ミリグラムパーリューベ))としています。
(6)
 また、リン酸トリフェニルとリン酸トリクレシルを含む酢酸セルロースフィルムを用いたパッチテストで、「数人に陽性反応が見られた」ことやこれらの製造現場で「多発性神経炎が発生した」
(6)という報告があり、これらの原因についてはリン酸トリクレシルによるものではないかと考えられているようですが、はっきりしたことはわかっていません。 

【東京都健康安全研究センターによる空気中のリン系難燃剤濃度調査結果】
(7)
 2001年に東京都健康安全研究センターが行った調査では、リン酸トリフェニルの濃度の最大値が、住宅で15.1、オフィスビルが13.5、外気が4.0未満(単位はいずれもng/m(ナノグラムパーリューベ))となっています。上の無毒性量や許容濃度と比較すると検出された値はナノグラムのレベルなので、室内空気を採取できた部分の結果だけ見れば無毒性量・許容濃度(職業暴露限度)は超えていません。

 許容濃度を超えていないということで安心してしまう前に、許容濃度とは何かということを知っておく必要があります。厚生労働省などが用いているTWA(時間加重平均値)というのは、大人の労働者の労働安全衛生のために一定の労働時間内で暴露しても健康に差し支えない値として設定されているものであり、学校での子どもたちに対する安全性を評価するために設定されているわけではありません。過敏な体質の子どもでも事故を起こしてはならないという前提で考えるならば、
健康な大人 化学物質過敏症の大人 健康な子ども 化学物質過敏症の子ども という4つの群での調査が行われるべきです。多くのリスク評価ではこの視点が欠けていますし、1室で同時に41台のパソコンを稼動させるなど、コンピュータ室での子どもたちの学習活動の特性を念頭に置いたリスク評価がされているわけでもありません。誰でもが安心して学習活動が行なえることを前提とするならば、この4群を対象とした評価をすべきですし、リスク評価で許容濃度の設けられている物質については、完全に安全性が証明されるまでは予防原則に従って使用を差し控えるべきと考えます。
 
【廃棄後の問題】
 使用時の問題とは別に廃棄後の問題もあります。リン酸トリフェニルのオクタノール/水分配係数は4.59と親油性が高く、「水生生物に対して毒性が非常に強い」「水生環境中で長期にわたる影響を及ぼすことがある」とされています。
(8)現在、国外での廃棄パソコンによる汚染の問題が懸念されています。

【シリコーン系難燃剤】
 このようなリン系難燃剤の問題をとらえ、一部のメーカーでは難燃剤にシリコーン系のものを部分的に使う動きが出てきています。
(9)このメーカーの難燃樹脂は、再生ポリカーボネイト樹脂にシリコーン難燃剤を混ぜたもので、ディスプレイの筐体(きょうたい:外装)に使っているとされています。しかし筐体イコール樹脂という発想ではなく、替わりにマグネシウム・ステンレス・アルミなどを無垢かカラーアルマイト処理をして使えば難燃剤は必要ないとも言えます。

【ソルダーレジストの難燃剤】
 筐体以外の部分で、プリント配線板に使われるソルダーレジスト(配線以外の部分に半田がつかないようにする塗布剤で日本では主に緑色のもの)にもハロゲン系・リン系の難燃剤が含まれるものが多いのですが、最近ではそれらを含まないソルダーレジストを開発する動きもあります。
(10)

  パソコンの中央処理装置(CPU)は発熱量が高いのが特徴ですが、そのチップには温度センサーが内蔵されているので高温になったとしても発火する可能性は低いといえますし、自己消化性のある樹脂を使うことで難燃剤を入れる必要はないと考えます。メーカーが追求しているUL94などの規格は、パソコンという用途を考えると過剰な性能ではないかとも思える一方で、VOCに対する安全性が蔑ろにされている感が否めません。エコケーブルに使用されている水酸化アルミニウム系、無機系などの難燃剤で代替できるのではないかと思います。
 また、難燃剤以外のVOCの放散源についてもいろいろ考えられますが、プリント配線板の中では一番問題となるのがカバーコート剤(配線板を埃や結露から守るもの)ではないかと推測します。 
安全なIT環境整備のために私たちにできること
 IT環境を整備していくことは、子どもたちの学習環境を整える役割を担う私たち学校事務職員にとってますます重要になってくるでしょう。IT戦略の目標を達成することも大変重要ですが、子どもたちや教職員の健康が守られることが前提でなければ、学校が子どもたちの成長するにふさわしい場ではなくなってしまいます。

 何よりも揮発性有機化合物の一般的な対策としては、「換気」と「放散源の除去」と言われています。

 寒冷地では、特に冬期間、換気が難しくなります。熱交換式の機械換気装置をもっている学校は少ないのではないでしょうか。どこの自治体でも財政が厳しいとは思いますが、熱交換式の機械換気装置の設置を粘り強く要望していくことが必要です。
 「放散源の除去」で私たちにできることは、より安全な製品を選ぶことです。新品のパソコンを設置前に換気のよいところで稼動し放散物質を放散させて飛ばしてしまうベイクアウトという方法もありますが、それをしたからといって全く遊離ホルムアルデヒドが出てこなくなるわけではありません(潜在ホルムアルデヒドが徐々に遊離ホルムアルデヒドになる)。より安全なパソコンの供給と安全性情報の積極的な公開をメーカーに望むしかありません。
 教室で生活する子どもたち個々人の許容量は異なっても暴露量はあまり変わらないのですし、誰にでも発症するリスクはあるのですから、化学物質の問題が化学物質過敏症患者だけの問題ではなく、健常に見える「あなたの問題」「みんなの問題」であるということを社会的認識に高めていく必要があります。
資料提供・協力:「子どもの健康と環境を守る会」
参考文献:
       (1)「第1種、第2種指定化学物質(PRTR/MSDS制度対象)のプリント配線板への
         含有状況調査結果について」 社団法人日本電子回路工業会環境安全委員会
       (2)「環境対応型淡色フェノール樹脂」 住友ベークライト株式会社Webサイト
       (3)「Ecma328.pdf」 Ecma オフィシャルサイトより 
       (4)「パソコンに関するVOCガイドライン(第1版)」
         (社団法人電子情報技術産業協会IT製品環境事業委員会VOCタスクフォース)
       (5)「パソコンからの揮発性有機化合物に対する取り組みについて
          (社団法人電子情報技術産業協会IT製品環境事業委員会VOCタスクフォース)
       (6)「化学物質による環境リスク評価第3巻」 環境省
       (7)「化学物質による室内汚染 難燃剤による汚染」 東京都健康安全研究センター
       (8)「国際化学物質安全性カード リン酸トリフェニル」ICSC番号:1062
         国立医薬品食品衛生研究所
       (9)NEC及び信越化学Webサイト
       (10)タムラ製作所Web
サイト
 コンピュータ室におけるホルムアルデヒドの放散速度を測定したデータはいくつか公表されていますが、ある自治体では、2004年にコンピュータ室について測定された33校のうち、第1回目の試験で6校が指針値を超えていました。
 コンピュータ室においてホルムアルデヒドを放散するものは、壁紙や床材、パソコンテーブル、そしてパソコン本体など様々です。
 英文の文献の翻訳などで大変更新が遅くなってしまいましたが、電子機器業界をめぐる最近の動向を踏まえてコンピュータ関係で特集します。

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